堂屋敷の話(どうやしきのはなし)
三津間の山のふもと近くに小さなお堂がありました。
お堂には時々、旅の僧とか、こじきなどが一夜の宿として泊まることがありました。
ある秋の夕ぐれ時、ひとりの旅の僧が、こじきのようなみすぼらしいかっこうをして、近くの家を訪ねてきました。
「旅の者だが、難儀をしているので、一晩あのお堂にやっかいになります。どうか、よろしくたのみますよ。」と弱りきったような声でたのみこみました。
ちょうどその時、家の中では、母親と娘さんが、ぼたもちを作っているところで、おいしそうなにおいがただよっていました。旅の僧は、とてもお腹がすいている様子でしたが、とぼとぼお堂の方へ行ってしまいました。
心の優しい娘さんだったのでしょう。むすめは手を休めて僧の後姿を見送りました。
(ぼたもちをわけてやれば良かったのに・・・)
楽しいお夕はんにも、むすめさんは、あの僧のことが気になってしかたがありませんでした。
(きっとひもじい思いをしているにちがいない・・・。)
むすめさんは、うす暗くなった夜道をひとりお堂へと急ぎました。
あたたかいぼたもちを一個、自分の分け前を食べずに持って行きました。
お坊さんはたいへん喜んで、お礼に一枚のよごれた布切れをむすめさんにくれました。
「自分の分も食べないでわたしにくれるのですか、ほんとうにありがたい、もったいないことです。
何もないわたしでお礼もできません。この布であなたの顔をふいてください。わたしのささやかな気持ちです・・・。きっとよいことがありますから・・・。」
その後、むすめさんは、朝、顔を洗うたびに、その布切れを手ぬぐいの代わりにして顔をふきました。
どうしたことでしょう。むすめさんはみるみるうちに見違えるような美人になりました。
あちこちからおよめさんにほしいと話があり、たいそうよい家へおよめに行ったそうです。